今日は企業経営理論H27第8問について解説します。
次の文章を読んで、下記の設問に答えよ。
技術開発型ベンチャー企業が自社開発の技術の成果を商品化していくプロセスは、いくつかの段階に分かれている。研究段階では研究開発チームなどでシーズを創出し、開発段階では研究から開発へと発想転換してマーケティングによる仕様の絞り込みで製品開発に取り組む。そのうえで、開発した製品を市場へ投入して事業化を成し遂げ、事業の拡大を意図した戦略をもとに生産・販売体制の確立を進めていく。しかし、段階を進めていく過程ではいくつかの障壁に直面し、その回避策を考える必要がある。研究段階から事業化に至るまでの障壁には、①基礎研究で開発されたシーズの社会的な有用性が識別しにくいことによる「デビルリバー(魔の川)」、応用研究と製品開発の間で十分な資金や人材などの資源を調達できない「デスバレー(死の谷)」があり、事業化を成し遂げた後にも、②市場で直面する激しい競争状況を意味する「ダーウィンの海」と呼ばれる障壁がある。
(設問1)
文中の下線部①の「デビルリバー(魔の川)」と「デスバレー(死の谷)」に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア TLOなどを活用して大学の技術との連携を積極化するよりも、基礎技術や高い要素技術を必要とする領域に踏み込んで自社技術の開発に注力することが「デビルリバー」の回避につながる。
イ 技術シーズ志向の研究とニーズ志向の開発では、新たなシーズを絞り込む収束型作業から大きなニーズを見つける発散型作業へ切り替えができなければ、「デスバレー」を越えられずに資金的に行き詰まってしまう。
ウ 社内プロジェクトメンバーの担当を入れ替え、商品化や顧客マーケティングに近いメンバーに権限を持たせることは「デスバレー」の回避につながる。
エ 所有している特許権や意匠権などの産業財産権のうち、一部の専用実施権を第三者企業に付与するのを避けることで「デビルリバー」を超える時間の短縮につながる。
(設問2)
文中の下線部②の「ダーウィンの海」を回避するための方策に関する記述として、最も適切なものはどれか。
ア 研究開発段階で大手企業と共同開発をしていても、事業化以降はアライアンスの解消を進める。
イ 生産と販売・アフターサービスを分離して独立させた体制の構築を進める。
ウ 生産に伴う原材料の支払いサイトと製品販売後の回収サイトの時間差を短縮する。
エ 生産の外部委託を進め、製品企画と製品設計に注力する。
解説
研究開発のマネジメントに関する問題です。
今回の問題は日本語の解釈がちょっと難しかったりするため、若干対応しにくい問題かもしれません。
(設問1)
選択肢アのデビルリバーとは、研究段階のシーズから実際のニーズに結び付けられない、といったような研究と開発の段階の間にある壁です。
企業が研究開発を行う場合、ニーズに合うシーズを自社で開発しようとするよりは、TLOなどを活用して大学などで開発中のシーズと結びつける方がデビルリバーを回避できる可能性は高まります。
よって、この選択肢は×と判断できます。
選択肢イは「新たなシーズを絞り込む収束型作業から大きなニーズを見つける発散型作業へ切り替え」とありますが、デスバレーを乗り越えるためには、むしろ事業化に値する成果を絞り込んでいくことが必要となります。
よって、この選択肢は×と判断できます。
選択肢ウはその通りで、デスバレーを乗り越えるためには商品化や顧客マーケティングにより開発の成果を効果的に事業化することが有効です。
選択肢エは、判断に迷うかもしれませんが、権利を「第三者企業に付与するのを避ける」よりは、付与して第三者企業を活用した方がよりシーズとニーズが結び付きやすいと考えられます。
よって、この選択肢は×と判断できます。
以上から、正解は選択肢ウとなります。
(設問2)
選択肢アは、「アライアンスの解消を進める」とありますが、大手企業とアライアンスを継続ることで、大手企業の持つ生産設備や販売網を活用し、事業として成果を出せる可能性が高まります。
よって、この選択肢は×と判断できます。
選択肢イは、生産と販売・アフターサービスを分離して独立させるよりは、連携を密にした方が事業として成果を出せる可能性が高まると考えられます。
よって、この選択肢は×と判断できます。
選択肢ウは、確かに資金繰りの改善は重要ですが、それが事業として成果を出すための決定的な要因かと言うと判断が難しいところです。
そのため、一旦判断を保留して次の選択肢を確認することとします。
選択肢エはその通りで、「製品企画と製品設計に注力する」というのは、生産設備や販売網を持たないベンチャー企業にとって、新たに生産設備や販売網を整備するよりは、研究開発に特化してその成果を生産設備や販売網を既に持っている会社に売った方が成功の可能性が高くなるということを意味しています。
よってこの選択肢は〇と判断できます。
選択肢ウも絶対に×とは断言しにくいですが、選択肢ウとエを比較するとエの方がより適切と考えることができます。
以上から、正解は選択肢エとなります。
このように、企業経営理論では○×の判断を迷うような選択肢がたまに出題されますが、そのときは「より適切そうなもの」という判断基準で選んでいくようにしましょう。